ミノキシジルタブレットを飲み始めて、ちょうど一年が経とうとしていた。鏡を見るたびに感じていた憂鬱は、生え際に現れた確かな産毛によって、少しずつ自信へと変わっていた。薄毛治療は長期戦だ。この調子で、焦らず続けていこう。そう思っていた矢先のことだった。ある朝、喉の痛みと悪寒で目が覚めた。熱を測ると38.5度。全身の関節が軋むように痛く、頭痛もひどい。完全に風邪をひいてしまった。薬箱を探すと、以前、妻が処方されたカロナールの残りがあった。「これを飲めば、少しは楽になるだろう」。そう思い、錠剤を手に取った瞬間、ふと手が止まった。「待てよ、ミノキシジルとの飲み合わせは大丈夫なのか?」。毎朝欠かさず飲んでいる、あの小さな錠剤。僕の肝臓は、毎日その代謝という仕事をこなしているはずだ。そこに、さらにカロナールという仕事を上乗せして、肝臓は悲鳴を上げないだろうか。ネットで検索すると、「肝機能障害」という怖い言葉が目に飛び込んできて、僕の不安は一気に増大した。自己判断で飲むのは、やはり怖い。僕は、ミノキシジルを処方してもらっているクリニックに電話をかけることにした。受付の方に事情を話すと、「先生に確認しますね」と一度電話が保留になり、すぐに看護師さんから折り返しがあった。「先生から伝言です。用法・用量を守っていただければ、一時的な服用は問題ないとのことです。ただ、市販薬や残っているお薬で対処するのは2日程度までにして、症状が改善しない場合は、必ず内科を受診して、ミノキシジルを服用中であることを伝えてくださいね」とのことだった。その言葉に、僕は心から安堵した。専門家の許可を得られた安心感は、何物にも代えがたかった。僕はカロナールを服用し、その日は一日中眠った。翌日には熱も下がり、頭痛も和らいでいた。この一件を通じて、僕は薄毛治療の奥深さを改めて痛感した。髪を生やすことだけを考えるのではなく、体全体の健康を守りながら、安全に治療を続けることの重要性。そして、そのためには、どんな些細なことでも相談できる「かかりつけ医」の存在が、いかに心強いものであるかということを。