鏡を見るたびに、後退していく生え際と、薄くなっていく頭頂部に、ため息をつく。30代も半ばを過ぎた頃から、私の自信は、抜け落ちていく髪の毛と共に、日々、失われていきました。市販の育毛剤を、気休めに振りかける毎日。しかし、状況は悪化する一方でした。私は、意を決して、AGA専門クリニックの扉を叩きました。医師の診断は、やはり「男性型脱毛症」。そして、処方されたのは、フィナステリドの内服薬と、ミノキシジル5%の「発毛剤」でした。「これで、本当に髪が生えてくるのだろうか」。半信半疑のまま、私の、人生を賭けた挑戦が始まりました。毎朝、そして毎晩、洗面台の鏡の前で、スポイトで1mlの液体を吸い上げ、それを、頭頂部と生え際に、丁寧に垂らしていく。そして、指の腹で、優しく、しかし確実に、頭皮に揉み込んでいく。その作業は、まるで、痩せ細ってしまった畑に、一滴の希望の水を、与えているかのようでした。最初の1ヶ月は、恐怖の「初期脱毛」で、むしろ抜け毛が増えました。心が折れそうになりました。しかし、3ヶ月が経った頃、奇跡は起こりました。頭頂部の、地肌が透けて見えていた部分に、指で触れると、チクチクとした、短い、しかし力強い、産毛の感触があったのです。「生えてる…!」。私は、思わず声を上げました。その小さな、黒い点々が、私に、どれほどの勇気と、希望を与えてくれたことか。それから半年、一年と経つうちに、その産毛は、徐々に黒く、太く、そして長くなっていきました。今では、かつてあれほど気にしていた、頭頂部の地肌が、ほとんど見えなくなっています。もちろん、20代の頃のように、フサフサになったわけではありません。しかし、私は、失われたものを取り戻すことができた。その確かな手応えが、私の心に、何物にも代えがたい自信を、与えてくれました。あの日、勇気を出して、一歩を踏み出して、本当に良かった。鏡に映る自分に、今は、そう、心から思うことができます。